がんの病理診断と病理医へのセカンドオピニオン
藤田保健衛生大学医学部第一病理学 教授 堤 寛 Yutaka Tsutsumi, M.D.
がん(悪性腫瘍)の最終診断は病理診断です。病理診断によって治療法が変わります。同じ臓器の癌でも、進行度によって治療や予後が大きく異なります。
手術中に行われる「術中迅速診断」では、手術するかどうか、どこまで切りとるかが決定されます。乳がんの温存手術やセンチネルリンパ節生検は病理医がその場にいないとできません。術後治療の選択に大きく影響する乳がん細胞のホルモン受容体やHER-2タンパクの有無も病理医が判定します。当然、細胞診断も病理医の守備範囲です。つまり、臨床所見と肉眼所見を参考に、顕微鏡診断すること、つまり、治療法の選択に重要な情報を病理標本から探りだすことが私たち病理専門医のしごとです。
病理診断の精度には、病理医の経験の深さのみならず、臨床医との良好なコミュニケーションが重要な要素になります。
病理診断は機械ではできません。たしかに、私たち病理医は、患者さんと直接接触する機会の少ない医師ですが、患者さんの医療にとても重要な役割を果たしているのです。
臨床医のアドバイザー的存在で、ドクターズ・ドクターとも言われます。医療の質を支える役目を演じています。
日本の病理専門医は1900人あまり。半数以上は私のように大学に所属しています。(社)日本病理学会の認定試験(すべて実地試験)に合格する新病理専門医は毎年50〜70人程度。絶対数不足のため、300床以上の総合病院で常勤病理医がいるのは半分程度に過ぎません。しかも、「ひとり病理医」が多く、休暇もままならないのです。
病理診断は、臨床医でなく病理医のしごとです。患者さんを含めた一般市民は病理医という医者の存在すら知らない場合が多く、内視鏡でとられた標本を顕微鏡でみるのは内視鏡医や外科医だと思いこんでいるでしょう。
病理診断は医療の中でとりわけ専門性が高いため、多くの臨床医は顕微鏡所見を的確に評価することができないのです。だから、治療を決定づける病理診断に関する細かい説明を聞きたい場合は、病理医から直接話を聞くことをお奨めします。
病理診断は、プレパラートと称される顕微鏡用ガラス標本を顕微鏡でみて行われます。顕微鏡標本は長期間の保存が可能で、いつでも新たにつくれること、簡単に郵送・あるいは画像伝送して別の専門医の第三者評価を受けられる点がポイントです。
顕微鏡標本をつくるのは臨床検査技師です。保存してあるパラフィンブロックから数ミクロンの厚さの切片が切られ、染色されます。病理診断部門に保存された検体は、いつでも再チェックが可能で、すばらしく客観性を保ってくれます。顕微鏡標本はうそをつきません。
この客観性はもっと利用されるべきです。もしあなたが自分の病気の診断を確認したいと思ったときには、まずご自分の病理標本を借りてください。担当医にご相談ください。事情を話せば、きっとあなたの顕微鏡標本が借りられます。標本枚数が多い場合もありますので、病理医に重要な部分を選んでもらわねばならないかも知れません。
施設によっては、標本を余分に切ってもらえるでしょう。ただし、準備に2〜3日かかるでしょうし、実費を要求されるかも知れません。残念ながら、保存してあるパラフィンブロックから標本をたやすくつくれることを知らない臨床医がいるのも事実です。
借りたプレパラートを郵送すれば、お望みの病理医のセカンドオピニオンが得られるでしょう。臨床情報と病理診断が書かれた最初の病理診断報告書のコピーがあることが望ましいです。知り合いの医師がいれば、その方に病理医を紹介してもらうのもいいでしょう。
思い切って、病院に勤務する病理医に直接電話してみてください。思いのほか、簡単にみてもらえるでしょう。インターネットで私のような病理医を捜すのもいいでしょう。保険診療外のサービスになりますので、今のところ診断料金はいただきません。
病理医があなたの病院に常勤するかどうかは、病院入口の医師一覧でわかります。現在、病理科が標榜(外部広告)できないため、病理医が所属する科名(院内表示名)は、病理科、病理診断科、検査部、臨床検査科、研究検査科、病院病理部、中央検査部などさまざまです。2003年3月に広告規制が緩和され、病理専門医の広告が可能となりましたが、患者さんにもっとわかりやすい形で表示することが必要ですね。
プレパラートの向こうで待っている患者さん、顔も知らない患者さんのことを考えながら、今日も病理医は黙々と顕微鏡に向かっているのです。ぜひ、お見知りおきを。
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